Original Article: TABI LABO
世界中で急速に普及している植物由来の代替肉。その多くはアメリカ発。しかし、香港のフードテック企業が新たに開発したプラントベースの豚ひき肉が、いまアジアで熱視線を浴びている。
遅かれ早かれ、きっと日本にも入ってくる「OMNIPORK(オムニポーク)」。それは中華人のみならず、アジアの食文化に転換点をもたらす大きな可能性を秘めた次世代ミートだ。
味も食感も「豚ひき肉」
オムニポークって?
植物由来の代替肉「オムニポーク」は、パッケージからも見て取れるように、色も質感も豚ひき肉そっくり。原料は主に大豆、えんどう豆、しいたけ、そして米。
大きく分類すれば、脱脂した大豆に小麦タンパクなどの植物性タンパクを加えてつくる「大豆ミート」ともいえるが(大豆ミートについて詳しくはこちら)、オムニポークは「より肉に近い食感」を引き出すことに注力。これが、中華文化圏の食生活にヒットした。
オムニポークを開発したのは香港のソーシャルベンチャー企業「Green Common」。カナダの食品化学研究機関と共同開発し、キノコやお米を独自配合することで本物の豚肉に近い食感や風味を実現。栄養も本物の豚肉と同等、もしくはそれ以上とも。
同メーカーによれば、豚肉と比較して、カロリー66%減、飽和脂肪酸86%減、鉄分127%増、カルシウム260%増、コレステロール値は0。さらには生肉にはない食物繊維も含まれている。
豚肉よりも健康的。そこに飛びついたのが、香港のミレニアルズたち。ヘルシーで環境にもやさしい代替肉は、彼らを中心に拡散していった。ちなみに、2019年10月キャセイパシフィック航空が代替肉を使った機内食を提供したことで話題となったが、あれもオムニポークだ。
アジアの食文化を席巻
オムニポークに注目する理由
「ビヨンド・ミート」や「インポッシブル・ミート」の登場で、欧米を中心に代替肉のトレンドが急速に拡大していくなか、後発のオムニポークはアジアの食文化に根ざして開発を進めてきた。
同じ「ひき肉」でも、アメリカの代替肉はバーガーのパティにも、ボロネーゼとしても応用が効く牛肉が中心。いっぽうオムニポークが目指したのはアジア各国の料理で広く使われている「豚肉」のリプレイス。
「そこに大きな市場価値がある」と創業者David Yeung氏は、CNNのインタビューに持論を展開している。それというのも、アジアの大半の地域では、牛肉より豚肉が多く消費されている。なかでも中国は、食肉消費の60%以上が豚肉だ。
アジアのマーケットにおける代替肉の需要は、いわずもがな豚肉。Yeung氏が強調する大きな市場価値とはまさにそこ。そう考えると、インパクトはとてつもなく大きい。
台湾で1週間に100万個を売る
オムニミート使用の「ヴィーガン餃子」
オムニミートを使用した商品で爆発的ヒットを記録した、一例を紹介したい。
台湾全土に900店舗を展開するファストフードチェーン「八方雲集」。ここでいま、売れに売れているのが「ヴィーガン餃子(新菜食鍋貼)」だ。2020年1月の発売以来、1週間に100万個のペースで売れるというから、まさに飛ぶ鳥落とす勢い。
もともと信仰心が強い台湾では、食事に対しても仏教や道教の教えに従い、肉や魚を口にしない人も多く、国民のおよそ13%はベジタリアンといわれている。
けれど、これほどの爆発的人気となった背景には、「まるでお肉!」と食べた人が口を揃える餃子の“あん”に秘密あり。キャベツや香味野菜とともに使われているお肉こそオムニポークだ。
ミシュラン星レストランも導入
決して菜食主義に積極的でなかった香港の飲食店いおいても、オムニポークは広がりを見せている。三つ星レストラン「龍景軒」やヌーベル・シノワの「名潮食館」をはじめ、多くのトップシェフたちが食材として、広くメニューに受け入れているとも聞く。
台湾だけでなくシンガポール、タイ、ベトナムなど、市場も急速に拡大中。現在のところひき肉だけのオムニポークだが、ブロック肉やスライス肉の展開が実現すれば、料理の幅はさらに広がることだろう。そして、生産規模が拡大すれば、いつかは生肉より安価に手に入るようになるに違いない。
豚肉に取って代わるという短絡的な話ではないが、生肉か代替肉か、選択の時代はもうそこまできている。