Original Article: Business Insider
植物由来の人工肉市場が盛り上がる中、“後発”の中国でも爆発的ブームが巻き起こっている。アリババのECサイトが11月下旬、ブラックフライデーのセールで初めて人工肉を発売すると、2日間で1トン分が売れた。世界最大の豚肉消費国ながら、豚コレラの影響で供給が危ぶまれている事情もあり、アメリカ企業が先行していた人工肉製造にも、中国企業が一気に進出を始めた。
アリババECサイト、2日で1トン売れる
人工肉は中国では「人造肉」と表記され、今年後半以降、流行語になるほど話題になっている。11月25日、アリババのECサイト「T-mall(天猫国際)」で、香港企業ライトトリートが生産する人工豚肉「オムニポーク」が発売されると、230グラム28元(約430円)と本物の豚肉より割高にもかかわらず、2日で4000個、重量にして1トン分が売れた。
購入した河北省在住の男性会社員(25)は、「気になっていたけど、近くに食べられる店がないのでこの機会に買った」と話す。普段、自炊はしないそうだが、炒め物に使う予定だという。
人工肉は食料不足を解決するだけでなく、畜産業の飼育過程で排出される温暖化ガスを削減できることから、環境に優しい次世代食品として世界で注目を集めている。日本能率協会総合研究所の調査によると、今年1000億円程度の世界の人工肉市場は、2020年に1200億円、2023年に1500億円に拡大する見込みという。
この分野で先行するのはアメリカ企業だ。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やハリウッド俳優レオナルド・ディカプリオ氏が出資するビヨンド・ミート(BeyondMeat)が今年5月にナスダックに上場すると、株価が1日で2倍以上に上昇した。そしてこのニュースが中国に伝わると、「人工肉が作れそうな」中国企業の株も一斉に値上がりし、大手食品メーカーやスタートアップが雪崩のごとく人工肉市場に参入した。
アメリカの人工肉企業が作るのは主に牛肉の代替肉だが、中国・香港企業は豚肉にフォーカスし、餃子など家庭料理に使える商品を提供、中国人への訴求を図る。
今夏創業した「珍肉」は製菓会社と組み、9月の中秋節に人工肉月餅を発売。大きな注目を浴びた。
豚コレラの影響で豚肉高騰、人工肉には追い風に
中国企業が人工肉を“おいしい”と捉えるのは、当然とも言える。牛肉の消費量はアメリカに劣るとは言え、豚肉消費量は中国が世界の半分を占めており、経済成長が続く限り食肉消費の拡大は間違いない。しかもそこにビヨンド・ミートやグーグル、ビル・ゲイツ氏が出資するインポッシブル・フーズ(impossible foods)などアメリカ企業が進出しつつあり、黙って見過ごせるはずもない。
豚肉消費大国であるにもかかわらず、豚コレラの影響で需給がひっ迫していることも、人工肉には追い風となっている。
中国では2018年8月に初めて豚コレラの発生が確認され、感染地域が徐々に拡大。豚の大規模処分で養豚数が大きく減り、豚肉の値上がりを招いている。
中国国家統計局によると、10月の豚肉価格は前年同月比101.3%上昇。豚肉価格だけで消費者物価指数(CPI)を2.43%ポイント押し上げ、同月のCPIは2012年1月以来7年ぶりの高水準となった。豚肉の不足で牛肉や羊肉などの需要が拡大し、10月の畜肉類商品価格も同66.8%上がった。
国内の豚肉不足を補うため、アメリカからの輸入も増やしているが、米中貿易摩擦の真っただ中でもあり、安定した供給は保証されない。
国民食である豚肉の高騰は、経済や社会の不安定化につながりかねない。中国政府は養豚農家への支援策を打ち出し、備蓄していた冷凍豚肉を放出する事態になっている。
ネット購入者の過半数が20代
豚コレラは突発的な追い風だが、長期にわたって市場を支えそうな追い風も吹いている。それは、「若者の支持」だ。
天猫国際によると、ブラックフライデーに人工肉を購入した消費者の多くが中国沿岸部の大都市の20代だった。購入者の54%が90後(1990年代生まれ)で、居住地域では一級都市(北京、上海、広州、深セン)とアリババ本社のある杭州が半分以上を占めた。
天猫国際は「若い人は基本的に目新しいもの、トレンドに敏感だが、人工肉の持つ『健康食』『環境に優しい』というイメージへの好感もあるようだ」と分析している。
中国は宴会などで出された食べ物を残すのが常識であり、贈答品の月餅には過剰なまでの包装が施される。豊かになるにつれ資源浪費が深刻化しているが、海外の情報や価値観に触れる機会が多い20代の消費スタイルは、先進国と変わらなくなっている。
2020年は米中企業の競争本格化か
現在市場に出ているのは植物由来の人工肉だが、日本や欧米に負けまいと、動物細胞を培養させて作る「培養肉」の開発も加速している。
11月18日には、南京農業大学の研究者チームが、豚肉の幹細胞を20日間培養し、5グラムの肉を生産したと発表。中国初の培養肉が誕生したと話題になった。
シェア自転車、無人スーパー……画期的なビジネスモデルに大量の資金が流れ込み、市場の膨張と淘汰が繰り返される中国の新興市場。人工肉市場も話題が先行する形で急拡大しているが、世界的に長期的な需要が見えていることもあり、すぐに弾ける可能性は小さい。
アメリカ企業という好敵手も得て、2020年はさらに熟成が進みそうだ。